どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

◎2020~21「新コロ」禍の冬シ-ズン・スポーツ / 陸上・長距離界をふりかえる〈後編〉マラソン

-No.2736
★2021年03月19日(金曜日)
★11.3.11フクシマから →3662日
★延期…オリンピック東京まで → 127日
★旧暦2月07日(月齢5.7)
※次回は、3月23日(火)の予定です※




 

大阪国際女子マラソン(1/31)

 数を絞られた出場選手のなかから、スタートするとすぐ、先頭に立った一山麻緒さん(23、ワコール)と前田穂南さん(24、天満屋)が、ペースメーカーの男子3選手に守られる(実際みごとな風除け役であった)ようなカタチになると。
 ついに最後まで大勢はかわらずに推移して、実況中継のテレビ・カメラもひたすらそれを追うことになりました。

 それこそアレヨアレヨという間…のことで、これはレース前から「日本新記録をねらわせる大会」と呼ばれていた、そのとおりの展開。1人か2人はイキのいい若手が果敢にチャレンジしてこないか…の期待もむなしく、ぼくは序盤から半ば興味を殺〔そ〕がれていました(開催に尽力された関係者には申し訳ないけれども…〝過保護〟に見えましたネ)。

 お膳立ても万全。
 起伏がほとんどない長居公園周回コース(1周2.8㎞を約15周)、コース沿いには仮設の風除け壁が設けられ。国内レースでは、ぼくもはじめて見る男子選手(川内優輝くんなど3名)のペースメーカーがついて。
 参加人数も絞られた出場選手たちにはPCR検査が義務づけられ、めでたく全員クリアの陽性者ゼロ。

 競技場のスタンドも周回コースも徹底的に無観客。晴れ、微風の好コンディション(気温10.2度がやや暑かったか…程度)。
 12㎞すぎで前田さんが後退。すかさずぺ-スメーカーの一人がスピードダウンして彼女のアシストにまわります。(やさし~ぃ!)
 そうして、懸命に喰らいついて行った一山さんも24㎞あたりからペースダウン。新記録づくりへと導くペースメーカーには、ついて行けませんでした。

 ペースメーカーをつとめ、自身101回目のフル・マラソンになった川内くんと、もう1人の男子選手も、ゴールの競技場入口まで彼女たちをエスコートしたあとに、人知れずゴール。プレッシャーのない状態で走るとこんなにも楽々なものか…と、あらためてレースの厳しさを思い知らされたことです。

 このレ-スは、男女混合レース(とくに契約がないかぎりぺ-スメーカーもゴールしてかまわない、海外レースでもすでに前例がある)だったとのこと(ちょっとワカリニクイ)。

 果敢に挑むイキのいい若手がいない…と思われた大会でしたが、結果は8位までが30分切りを果たしたとのこと(ヨゴザンシタ)。
 スポーツの見方が、また、ひとつ変わったレースではありました。

 結果。一山さんが大会新の2時間21分11秒で初優勝ながら、野口みずきさんの日本記録(2時間19分12秒=05年9月ベルリン)更新はならず。「日本記録を出すための大会だった。悔しい」とのコメント(そだね…)。
 ちょっと、調子もいまいちだったみたいでした。
 2着前田さんの記録も、2時間23分30秒の自己ベストでしたが、ナットクできる走りではなかったでしょう。




びわ湖毎日マラソン(2/28)

 
 それは、勝負どころの36㎞付近、給水ポイントでおきました。
 トップ集団3人のなかから、真っ先に指定テーブルが来て、走り寄った鈴木健吾くん(25、富士通)が…。
 (あっ)思わずボクが胸に叫んだのは、マイ・ボトルをポトリ、とりそこなったからです。

 ぎりぎりスタミナ補給どころでの給水は「命の点滴」、ほかの給水とはくらべものにならない急所。そこでの失敗は、心的にも致命的になりかねません。
 実際、数多くのマラソン・レースで、ぼくたちは、この地点での力水を得てエンジンをギア・アップ、勝利に結びつけたヒーローの姿を見てきました。
 逆に、とり損なったりしようものなら、ガックリ・ダウンです。

 鈴木くんにつづくライバル2人、サイモン・カリウキくん(24、戸上電機製作所ケニア)と土方英和くん(23、Honda)は、しっかりキープ。
 瞬間(やられたな…)と、ぼくは思いました。
 ところが!

 この、際どく微妙な〈勝負の綾〉の場面。
 ここで、スルスルとスパートして抜け出したのは、なんと鈴木くん。
 あれよあれよ…と、見る間にライバルとの差を広げて、ぶっちぎりのビクトリー・ロードに仕上げてしまいました。
 これが最後(第76回)の「びわ湖毎日マラソン」のすべて、でした。

 結果。
 ➀鈴木健吾、日本新記録樹立2時間4分56秒(大迫傑の従来記録を33秒更新)。
 ➁土方英和 ③細谷恭平 ➃井上仁人 ⑤小椋裕介 以上4人が6分台。
 ⑥~⑮までの10人が7分台、以下㊷までが「サブテン」の10分切り。
 さらには男子マラソン日本歴代10傑にも、このレースで一気に5人がとびこむという、大収穫レースになりました。

 なお付記を加えれば、昨年「フルマラソン100回目のサブ20(2時間20分未満)」という世界新記録を樹立(ギネス世界記録に認定)した川内優輝くん(34、あいおいニッセイ同和損保)も、みごと7分台で10位。

 もうひとり、今回は裏方にまわった村山謙太くん(28、旭化成)のペースメーカーぶりも、ヨカッタと思います。
 (一方で、マラソン代表の招待選手、中村匠吾(28、富士通)くんの、体調不良で欠場というザンネンもありましたが…)

 健吾くんの活躍は大学(神奈川大)時代から知られ、「箱根」では2区で区間賞の実績もあげていますが、ファンの期待度からすると、いまいちの感。
 身長163㎝・体重46㎏の軽やかさを生かしきれていませんでしたが、彼の場合は実業団に入って、この課題を克服できたようです。

 なにしろ、ぼくが生まれてすぐの昭和21年から始まって、前回東京オリンピックの覇者アベベ・ビキラほか、君原健司や宇佐美彰朗、瀬古利彦や宗兄弟ら、錚々たるランナーたちが優勝を飾っている「びわ湖毎日マラソン」の、華々しい終演ではありました。

 なお、びわ湖毎日マラソンは再来年から大阪マラソンと統合されます。数多くの一般参加ランナーも加え、都会型の市民マラソン開催が人気になっている現在、びわ湖畔の狭い道幅には残念ながら無理があった…ということです。
 
 さらに余談として、今回、オリンピック支援のため設立された日本実業団陸上競技連合からの報奨金制度は、すでに終了しており。そのため、鈴木健吾くんに1億円はナシ。
 でも「あまり考えていなかった」と、その笑顔はあくまでも清々しかったのが救いです。
 


名古屋ウィメンズマラソン(3/14)

 東京オリンピックの女子マラソン代表の座、3つめをもぎとった…かと思われた40日後に、あの夢の美味しい果実はスルリと手からこぼれ落ち、一転〈補欠〉の冷席へとまわされてしまったのでした。

 その悔しさが、松田瑞生さん(25、ダイハツ)の表情を硬くしていました。プリっと弾けそうに健康な身体とは裏腹に…

 レースがスタートすると、サングラスに隠れて表情はヨメませんでした、けれど。ペースメーカーから少し間をおいての走りだしには、緊張が感じられました。
 代表の1人、鈴木亜由子さん(29、日本郵政グループ)に勝って踏ん切りをつけるつもりだった、気もちにくわえて、やはり万感せまる口惜しい想いと、どうしても感情的にわりきれないものがあったのだろう、と思います。
 
 「2021名古屋」の招待選手は、ゼッケン「1 松田瑞生」「2 小原怜(30、天満屋)」「3 佐藤早也伽 (26、積水化学)」「4 岩出玲亜(26、千葉陸協)」の4人。コロナ禍で外国からの招待選手もなし。

 顔ぶれとしては、ちょい寂しい。しかも、松田さんと同じくオリンピック代表補欠の小原さんは、スタートからトップグループに入らず…で、ますます寂しい。
 レースは、まもなく松田vs佐藤のマッチレースになり、その佐藤さんも22㎞すぎで遅れはじめると、あとはひとり旅。

 ペースメーカーが複数つくビッグレースが多くなるに連れ、マラソンから勝負の醍醐味が薄れ、そして意外なドラマが生まれるチャンスも少なくなった…気がしてなりません。
 トップクラスの招待選手たちが、高い設定目標に沿ったペースメーカーの刻むリズムについて行くカタチになると、必然、トップ集団は絞られ、限られ、予想外な展開が育まれる余地は少なくならざるをえませんから。
 これは、スポーツの魅力を半減させることになるのではないか、と思われるのですけれども…。

 一人旅になってからの松田さんは、しかし、力感あふれるフォームにもかかわらず、タイムは伸び悩みます。テレビ・カメラの映像を見ると、かなりの風がある様子。その頃、名古屋のコースに吹いていた風は秒速8m超だったとは、後で知らされたことでした。

 結果、松田さんの大会初優勝タイムは2時間21分51秒で、自己記録にもおよばず。再出発宣言には、悔しい結果になりましたが。ひとしきり泣いたあとの笑顔は爽やかでした。
 2週間前、男子マラソンで4分台の〝日本新〟を叩きだした鈴木健吾くんからも「おめでとう」のエールがあったそうです。

 トップからの遅れを最小限にとどめて、2位の佐藤さん。
 マラソン2回目の記録2時間24分32秒も、初マラソンだった前年名古屋の自己記録更新はなりませんでしたけれども、健闘といっていいと思います。
  ……………

 これで、この冬のロードレース・シーズンは終了。 
 「新コロ」禍、コンディション調整のむずかしかったことを想うと、想定外の好成績、といえるのではないないでしょうか。