※「コバンザメ」の貧相…を考えなおす
-No.2596-
★2020年10月30日(金曜日)
★11.3.11フクシマから →3522日
★延期…オリンピック東京まで → 267日
★旧暦9月14日(月齢13.3)
★自然と環境に教えられたこと
2年以上も前に、コバンザメについて書いたことを想いだして、読みかえしてみた。結果…
ちと事情が変わった、と言うか、コバンザメのために付言しておかねばならないことに気づいたので、稿をあらためておきたい。
ぼくのワルイくせで、思い入れ・思いこみがつよすぎ、つい踏み越してしまう。コバンザメの記事にも、それが認められたわけだけれども…。
ともあれ
まずは、その〈過去記事〉をあらためてお読みいただくことにしたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「コバンザメ」的〈腰巾着〉な生き方の真相
-No.2187-(2018年09月17日・火曜日)記事
なにしろ、ふざけた…というか、侮〔あなど〕られた…というのか、ばかに妙ちくりんな名ではある。
水中ダイビングをしないボクは、「コバンザメ」という名を与えられた魚を、記録映像と水族館でした見たことがない。
つまり、触ったこともなければ、もちろん食べてみたこともない。…そう…食べたいと思ったこともなかった。
★なにしろ貧相な魚である★
ぼくは〈貧相〉というものに〈運否天賦〔うんぷてんぷ〕〉の不都合を感じる。じつに「ふとどき」で「不埒〔ふらち〕」なものと思う。「貧相は外道である」と断じたいくらいの、つよい憤りさえおぼえる者ダ。
「コバンザメ」は貧相な魚である。
成長しても人間でいえば子どもくらい(70cm)の、やたら細長いだけの魚体は体高にくらべて体長が8~14倍に達するという異形。
そのガラっぽい体には、鰭ばかりが矢鱈に目立つ。
体側には太い黒条がとおって、どこかしら、〝掃除魚〟で有名な「ホンソメワケベラ」に似たような…と思っていたら、なんと実際に「コバンザメ」の幼魚にも掃除魚生活をおくるものがある、そうな。
(要は、そんなふうな生き態の魚……)
★ぜんぜん光っていない、小判のヒミツ★
せっかく〈小判〉の名をいただきながら、きらびやかに輝くこともなく、ついでに勇猛な〈鮫〉とも全く無縁のスズキ目の魚ときている。
唯一、目覚ましい進化の冴えを魅せる頭上背面の「コバン」は、じつは背鰭の一部が変形した〈吸盤〉なのだが、コレがなかなか精巧なデキ。
ご覧のとおり、横向きに並んだ〈隔壁〉がミソで、これを操ることによって大型魚に吸い付いたり、あるいは離散したりする。
そのシステムは
①吸い付くときは、その大型魚に接触すれば、吸盤の隔壁が立
ち上がる。
②…と、海水との間に水圧差を生じさせることで強力に吸着。
相手がウミガメの場合などは、腹を上に逆さまの体勢で吸い
付く。
③この状態で、後ろ(尾の方)に引っぱられたって、なかな
か、どうして離れるものではない。つまり、大型魚が高速で
泳いでもダイジョウブ!
④そうして事情が変わったときには、コバンザメは吸い付いた
大型魚より少し早く泳げばよい。
⑤すると、吸盤の隔壁は元のとおりに倒れて吸着力を失い、ぶ
じ離脱に成功する、という仕掛けである。
こうして彼らは、行く先こそ「あなたまかせ」ながら、省エネ、気ままな旅ができてしまう。
★バガボンド(さすらい魚)の悲哀か…★
ただし、その細長いだけの魚体からもワカルとおり、食生活は裕福とはいえないようだ。
クジラやイルカ、サメやカジキやウミガメなど、大型海洋生物(ときには外洋船などにも…)」に吸い付いて暮らし。
(イルカがジャンプするのは邪魔くさいコバンザメどもを振り払うためである…とする説もあるくらい、シツコイともいわれる)
その狩りのオコボレにあずかる…といえばイイようだけれど、それだって、よっぽどの大物でも仕留めたときのほかは、大したことはあるまいし。
現実の日常は、吸着した大型魚の寄生虫を齧るとか、排出物を喰わせてもらう、くらいが関の山らしい。
こういう関係を、総じて「片利共生」とかいうのだけれど、このコバンザメの場合、実態は「おこぼれ寄生」でしかなさそうである。
「コバンザメ」のもつイメージが、どうも、ぼくだけではない多くの人々のあいだに、パッとしない理由も、どうやら、そのへんにありそうに思える。
ぼくが最近になって見た、海の記録映像には、海底に並んだ6~7匹の「コバンザメ」。
なにをしているのかと怪しんでいたら、吸い付くのに良さそうな「移動物件」が通りかかるのを、待っているらしい情景とのことで。
これには、ボク、わけもなく目頭がウルッとするのを抑えられなかった……
★見かけによらず旨い魚★
ただ、せめて「コバンザメ」の名誉のために、付言しておけば、このサカナ。
「好んで食べる人もいるくらい」
「外見からは想像もできないほど美味しく、白身に赤い血合いをはさんだ身肉は脂のノリもいい」
「親戚筋のスズキなんかより身質は上、舌ざわりからしてほのかに甘い」
「重宝な、いいサカナ、ばかにしちゃカワイソウすぎる」
…などなどと、評判がよく。
まだ食していないボクなんぞは、とりあえず「魚好きと言うワリにゃ…ねぇ」などと、陰口でもたたかれそうなアンバイである。
……………
ここは、ひとつ。
日本はもとより、ほとんど全世界の暖海域に棲み暮らす、この「コバンザメ」。
じつは、大型魚に吸着して移動するばかりじゃなく、みずからの力で遊泳、回遊もする、という生き態を讃えて。
海の「ヒッチハイカー」あるいは「ヒッピー」としておきましょうか!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
いかがなものだろう…
じつは記事の後段、アンダーラインをひいたところが、ミソ・ショウユで。
いまから思えば、どうもボクはあのとき、あまりにもコバンザメを卑下して(卑しめ、見下して)書いていた。
いま、おおいに反省している、ぼくのワルイ癖は、ついうっかり、スキあらばヒョッコリ顔をだしてしまう。
……………
このたび
ぼくを、おおいに反省させた記録画像は、日本の奄美大島の海でとらえられたコバンザメたちの、命を生き抜く生態。
そこは、波静かな湾内の、浅い水深の砂地の海底だったけれども。
コバンザメたちは、大型魚などに吸い付きもせずに落ち着いて、ひもじそうな様子も見せずに。なにかを待ち受けては、パクパクと口を動かしているのだった。
ナレーションの謎解きによれば…
じつは彼ら、〝養殖〟生簀に近い海底に、潮の流れに向きあうかたちに居並んでおり。つまり、養殖餌のオコボレを待っているのだ、と。
ぼくは虚を衝かれる想いで、唖然となった。
養殖〟生簀の囲い網の傍に、餌のおこぼれにあずかろうと集まる、中型魚や小魚たちがいることは知っていたけれど。
まさかに、コバンザメまでが、どうしてか養殖餌の旨味を嗅ぎつけて生簀の傍に陣どり、吸い付くことも忘れた〝至福〟のひと時をすごしていようとは、思いがけなさすぎた。
しかし
よくよく考えてみれば、ごくフツウの算段。コバンザメたちだって、なるべくなら苦労することなしに、生きる手だてが欲しかっただけ、なのであった。
彼らが、砂地の海底で待ち受けていたものは、おこぼれにあずかるために吸い付く相手…ばかりではなかったのであった。
まことに相済まないことだった。
奄美の暖かい海で、喰うに困らず生きる命、謳歌するコバンザメたち。彼らはそこで、生殖にも励むのはとうぜん自然のなりゆき。それが〈魚情〉というもの。
ほかの海の個体に比べれば、栄養状態もよさそうに見えるオスは、ツとめぼしいメスに擦り寄ると得意の吸い付き技を駆使。体を揺すって愛撫するのであった……