※しつこ鋭く執念深い…珍魚「チンアナゴ」の眼光
-No.2552-
★2020年09月16日(水曜日)
★11.3.11フクシマから → 3478日
★延期…オリンピック東京まで → 311日
★旧暦7月27日(月齢26.0)
◆なんか妙にちんちくりんな…
この魚は、実物よりも先に名を知った。
魚体はなるほど「アナゴ」タイプだけれども…はて?
「チン」(chin=あご)のココロがワカラない。「アゴなしアナゴ」じゃ洒落にもならない、じゃないか。
こういうときは調べてみるもので、即、解決。
この標準和名は、小型犬の「狆」に似ているからだ…そうな。
しかし、ぜ~んぜんナットクしかねる。
なぜなら、図鑑の写真を見たって。さらに、後には実物を水族館で確かめてからは、なおのこと妙ちくりん…でしかない。ぜひ「改名」してもらいたい。
だって、だって、体長35センチほどの身体は、まぁ、かわいいと言えるかも知れない、が。灰白色の体に黒っぽい斑点模様は、なかなか侮〔あなど〕りがたい、いかにもクセ者ふう。
……………
いまはじめに、ぼくは「妙にちんちくりんな」と表現した。
「妙ちくりん」というコトバは、「ちんりくりん」から出たものだろう。ふつう「背が低い」とか「寸たらず・すん詰まり」の様子を、軽んじて言う。そういうことになってはいるが…じっさい場面での用法は、もっと幅が広い。「妙ちくりん」がそのへんの事情を語っている。
「ちんりくりん」と同類の語に「つんつるてん」があって、どちらも語源は不明だ、けれども。語感のイエテる響き、幼児語ふうの表現はツミが軽く、コレはコレでまぁいいか…の気もする。
……………
チンアナゴを観察して見る。
穴に隠れる生活様式だから、穴掘りは巧みで、魚体の半分を占めるという尾を使って抉〔こじ〕るように、体をくねらせ、全身が安全に隠れるほどの穴を開けて、吾が棲み処とする。
好みの環境をいえば、流れの速いサンゴ礁、外縁の砂底。なぜなら、そこには餌になるプランクトンがいっぱい流れてくるからだ。
しがって、彼らが見せる珍なる生態風景。
ひとつのグループのチンアナゴたちは、みな揃って流れに向かって上半身を伸ばし、丹念にひとつひとつ、獲物を目でキャッチしてから捕食する慎重派。
つまり、ふだんは穴に潜めた半身を軸に食餌、敵があらわれるやいなや、すばやく全身を穴に引っ込めてやりすごす、そんな生き方。
海の生態系では、弱小グループに属するから、小心らしくつねに警戒をおこたらない、でいながら。その眼差しの抜け目なさは、スキあらば反撃も辞さない、したたかさを秘めて、生存競争の厳しさを物語る。
水族館の水槽を覗きこんでいた子のひとりが、この眼に気づいて「怖わっ!」と逃げ腰になるのを、ぼくは目撃したこともある。
日本では高知から琉球列島にかけて棲むという熱帯系だが、性格はおおらか…とはいかない、狷介〔けんかい〕かつ老獪〔ろうかい〕な性質〔たち〕もあわせもつ…らし!
ただし、繁殖期の生態(産卵の様子)はじつに微笑ましいもので、オスがメスのお腹にキスをして産卵をうながす。しかし、この場面をとらえたドキュメント映像のなかでも、チンアナゴの眼はオス・メスとも、とうぜん真剣そのものであり。
その前哨戦、メスを獲得するオス同士の争いには厳しいものがあって、闘い烈しく、敗れてスゴスゴと退散するオスの、背は(トホホ…)に曲り、萎れていた。
チンアナゴの英名は「spotted garden eel」、その意味するところは「斑点のあるツンツン庭草のごときウナギ」。
やっぱり「ちんちくりん」を(好意的な見方ながら)軽んじてござる……