どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

※進化の迷い!?…ガラパゴスコバネウの貧相すぎる小翼

-No.2531-
★2020年08月26日(水曜日)
★11.3.11フクシマから → 3457日
★延期…オリンピック東京まで → 332日
★旧暦7月8日(月齢7.0)、上弦の月




◆海か…空か…迷ってる!?

 絶海の孤島に棲み暮らす、その鳥は、風に吹かれて…
 エメラルド・グリーンの眼で、怪訝そうに、つよい風の虚空を見上げていた。

 彼(彼女?)は、いま、グンカンドリの奇襲に遭い、せっかくの獲物を横どりされたばかり、途方に暮れているかのようだ。
 得意の潜水泳法で海を翔け、食べ応えのある大きめの魚をゲットして浮上、波洗う磯の岩場に立って、いま、ひと呼吸したばかり。

 嘴の方向とは逆の、十文字に咥えた魚を、頭から咥えなおして呑みこもうとした、まさにその刹那。
 空中戦を得意とする盗賊鳥に襲いかかられ、なす術もなかった。
 そんな自身が恨めしい、とでもいうように…

 図鑑には、「岩礁の上で翼を広げ、日光浴していることが多い」と紹介されている。その「翼」と呼ぶには小さすぎる羽根は、大空の飛翔族、鳥類のものにしては情けないくらいに、ひ弱く。いたずらな神の仕業か、なにかの冗談にしか思えない。
 飛べない鳥、空を捨てた鳥。
 その鳥は、ガラパゴスコバネウ…

 いちど見たときから記憶の襞に焼き付き、それからは、見るたびに焼き印の焦げを深めるばかり。
 この鳥こそが、ダーウィンの〝進化の島〟を象徴する存在ではあるまいか。

 「コバネウ」も「鵜」である。
 水掻きの発達した〈水鳥〉の仲間である。
 たとえば日本には「海鵜」と「川鵜」とが棲み、岸の巣から水域へと飛び、水に潜って小魚などの獲物を捕らえて暮らす。
 彼らは、水陸両用の翼を推力に使って水深10㍍くらいまで潜ることができる。

 それなのに
 いっぽうの「コバネウ(小羽鵜)」の方は、飛べない…いや。
 飛べなくなった。あるいは、飛ばなく(飛ぶ必要がなく)なった、と解説される。
 そのことを、ことさらに強調するように、いじけて小さな翼。

 (ホントかぃな)と思う。
 これが〝進化〟か…

 せっかくの旅じたくの翼を捨てた鳥は、いまは旅さえもあきらめ。
 ガラパゴスの2つの島にのみニッチ(生態的地位)を得た鳥族の端くれは、それぞれに分をわきまえておとなしく棲み暮らし、他所へ気晴らしや訪問に出向くこともなく、生まれ育った限られた範囲で、つつましい生涯を終える、という。

◆これでも…カツオドリの仲間

 ガラパゴスコバネウは、鳥族のなかでも抜群の高い飛翔力を誇るカツオドリの縁者である。

 カツオドリといえば、すべるように空を舞いながら獲物を探し、発見するや細身の翼を鋭い戦闘機型に衣替えして海に急降下ダイビング、そのまま潜水漁に突き進む。
 その目覚ましい働きぶりから、〝なぶら(魚群)〟を追い求める漁師たちの目標にされた名誉の命名
 あのカツオドリとは…しかし…あまりにもチガイすぎて、どう見ても、おちこぼれにしか見えない。

 そんなコバネウから、獲物を掠めとるグンカンドリもまた、カツオドリの仲間で、さらに大きい。

 身軽で飛翔能力は高く、アホウドリたちのように、あまり羽ばたかず長距離を飛ぶことができて、さらに高速での飛翔や旋回も機敏。だから繁殖期以外は洋上の空で暮らす。
 光沢のある黒い翼に、鋭い鉤のような嘴。オスはその下に真っ赤な喉袋…コレもなるほど、うまい命名ではある、が。
  いっぽう、羽毛には油分が少ないため防水性がほとんど無い。それゆえに、海鳥であるにもかかわらず、水面に浮くことも泳ぐこともできず。万が一、海に落ちることがあれば、たいがい溺死する運命でもある。
 これもふくめてグンカンドリらしい…としておこう。

 そんなグンカンドリが、みずから海の上で獲物を捕る方法は、ただひとつ。
 海面スレスレに飛んで長い嘴で引っ攫うしかなく、ぜんぜん有利でもカッコよくもない。
 そこで、すばしこい能力まかせの追い剥ぎ、窃盗に頼るしかなく…しかし、相手がグンカンドリの弱みをこころえている場合には、着水・潜水の術で逃げられてしまう。

 だから、グンカンドリはコバネウを襲うしかない、ことにもなるのだが。
 ならば、ガラパゴスコバネウにもまた、〝再進化〟の奥の手があっていいのではないか、と思う。



◆(こんなはずじゃなかった…)

 絶海の孤島の岩場で翼を広げ、茫然と陽を浴びているガラパゴスコバネウは、きっと思いあぐねている、にちがいない。

 学説では、「かつての自然環境では地上性の捕食者がいなかった、ために飛翔能力を捨てた種と考えられる」という。
 たしかに、(そのとおり)であったろう。15世紀半ばから17世紀半ば、大航海時代にいたるまで…そうして、ダーウィンがあのビーグル号による航海でここを訪れた1835年頃までは……

 しかし
 その後の1~2世紀で、ほかでもないガラパゴスをはじめ、地球上の自然環境はもじどおり〝激変〟した。

 〝絶海の孤島〟だったはずの島には、ネコなどの外来種が繁殖するにつれ、寄生虫がもちこまれ、ヒトは違法な漁業活動で海洋汚染と環境攪乱をもたらし。
 これにエルニーニョ現象(太平洋赤道域、東部の海水温が上昇する現象)や火山活動も加わったおかげで、世界自然遺産登録や保護区制度などでは、とても守りきれないことになり。
  
 「飛ばない生き方」を選んだガラパゴスコバネウは、絶滅が危惧されるまでに数が激減。総個体数は1,000羽を割ったのでないか…といわれる。

 (こんなハズじゃなかったんだがな…)
 ぼくには、コバネウの溜息が聞こえそうに思える。
 きっと彼は、〈空中のように海中を翔けめぐる〉素晴らしいペンギンの泳ぎっぷりを、うらやましく想い泛べていることだろう。
 ガラパゴスペンギンもまた、いまの環境で棲息数を減らしている(飛ぶことをやめた)海鳥だ…けれど、その泳ぎっぷりと索餌力でコバネウを圧倒している。

 (やばいよ…ね)
 じつは、ダーウィンガラパゴスに来た頃から、コバネウたちは「進化のやりなおし」を模索し始めたのではないか…と、ぼくは想う。
 いちどは捨てた〈飛翔の羽〉だけれど、幸い〈退化〉はまだ〈消滅〉にはいたっていなかった。いまからでも遅くはあるまい、あらためて〈水陸両棲〉の道を歩みたいものダ…と。
 
 ぼくたちは、いま、その岐路に立って空を仰ぐガラパゴスコバネウの姿に、〈進化の迷い〉を見ているのではないだろうか。

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 学説が、「進化の修正」や「再進化」を認めているか、どうかは、知らないが。
 「行きすぎた進化」とか「むだな進化」というのはあって、それがじつは「生物の多様性をたもつカギになっている」可能性が、最近になって指摘されている。

 きらびやかなクジャクの羽とか、立派すぎて重すぎるシカの角は、果たして「有利な進化」なのか? どうも、そうではなさそうな? とすれば「ムダ(浪費)な進化」では?
 
 しかもそれが、程度の差こそあれ、さまざまな種に認められることから。
 「ムダな進化」がブレーキをかけることで、いたずらに他種を圧倒する勢力をなくすらしい、ことが知れ。
 また逆に、競争に弱い種からは「ムダな進化」が減って増殖にむすびついていく、ことも知れたという(東北大の近藤倫生教授)。
 
 さすれば
 ガラパゴスコバネウの、「進化の修正」や「再進化」もまた、アリではないか!

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 さて…
 そんなガラパゴス諸島の南東沖合に、17年以後、中国からの大漁船団が頻繁にあらわれ、操業を繰り返している、そうな。
 その海域は、母国エクアドル大陸側からのEEZ排他的経済水域)と、諸島周辺のEEZとの間。公海ではあるが、EEZや海洋保護区に侵入しての「海洋資源荒らし」もある、と同国では警告している。

 ではなぜ、太平洋東端の中国から、わざわざ遠い西端の南米まで遠征するのか。
 そこが、地球規模の海洋大還流、出口のひとつ、海底からの栄養分を運び来る〈湧昇流〉で知られる漁業資源の宝庫であるからだ。
 ガラパゴスが絶海の孤島でありながら、奇跡的ともいえる生物多様性に恵まれているのも、そのおかげ。

 それにしても
 大船団での操業が、その経済性を支えているのだろう、けれども大陸大国、中国の覇権主義は凄まじいばかり。
 その横暴ぶりには海賊グンカンドリも脱帽、絶滅の危機に喘ぐガラパゴスコバネウにいたっては茫然自失あるのみか……