どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

妖怪〝衣蛸〟…噂の主はムラサキダコ

-No.1415-
★2017年08月06日日曜日
★11.3.11フクシマから → 2341日
★ オリンピックTOKYOまで → 1083日

*72回めの「ひろしま原爆の日」。この10日後に生まれたぼくには…にもかかわらず原爆投下の既視感があって、いまだに遠い声を聞く。生涯にせめて一度、この日に笑顔でありたいと願いつづけてきた、けれど、ことしも叶わなかった……*

◆ヒラヒラ大風呂敷

 学生時代にレトロな気分、シャーロックホームズを気どったわけでもないが、親爺さんのインバネス(ケープ付きロングコート)を着て冬のキャンパスを闊歩したことがあった。
 似あわなかった…というより、他人さまには異様な風体にしか映らなかったようで、1日でやめてしまった。

 「マント」とか「とんび」とも称され、お大尽の服装といわれた品を、ケッコウおしゃれな人だったらしいとはいえ、わが父親が持っていたこと自体おどろきだったが、このインバネスがまたとても重かった。古くなって、首すじや肘のあたりなど擦れてきてもいた。
 街を歩いたら、ガキどもが囁き交わしながらついてくる。クルッと振り向き、両手にマントを広げて威嚇したら、よほどビックリしたのだろう、蜘蛛の子を散らすように逃げていったっけ。

 マントには、そんな効果があった。
 『吸血鬼ドラキュラ』である、オオコウモリのイメージだった。

 ヒラヒラしたものは、よろず生物の注意をひくが。
 相手が小さければ、カワイイだけで、なんら問題はない。蝶々がそうだ。
 それが、ある大きさを(子どもの身長、大人の半身くらいだろうか…つまりは大風呂敷である)を超えると、俄然、恐怖心を煽るモノになる。
 それは、目の前を覆われ真っ暗になる怖ろしさ、にチガイない。

 暗い暗い〝胎内めぐり〟は産道の記憶、産まれ出るまでの恐怖を克服する試練の道のりにほかならない。
 悪さを叱り、押し入れに閉じ込める〝お仕置き〟には、怖ろしい体験の記憶を呼び覚ます狙いがあった……

 〝青い大陸〟海に広がるマントは、忍び寄る捕食者の死の影である。
 襲いかかる影は、逃げる術もなにもかもを奪い去る。

 海の妖怪に〝衣蛸〟というのがある。

 ふだんの見た目には、ふつうのタコなのだが、船とか潜水の漁師とかが近づくと身体を衣のように広げ、その大きいことざっと6畳ほどもあり、搦めとって海の底へと引きずり込んでしまう、と。

 伝説の出自は京都府与謝郡というから、丹後半島、舞台は日本海である。そんなのが、たしかにいそうな気配がある。
 おなじ妖怪でも〝海坊主〟なんかは、ボクのイメージでは太平洋上に、大見得をきって現われる。

 ところで、この妖怪〝衣蛸〟、伝説の発祥はムラサキダコであろう、といわれる。
 別名が「毛布ダコ」、「羽衣ダコ」、「蛇ダコ」と、なるほどマントでも広げそうに面妖なやつ。
 その泳ぐ(逃げる)映像を見ると、ほんとにヒラヒラ、ユラユラと、煙幕でも張るように皮膜を広げはじめたのには魂消た。

 妖怪伝説の、その大きいこと「6畳ほど」もある…というのは大袈裟なようだが、皮膜の長さ3メートル幅2メートルにも達するそうだから、吃驚値としてはまぁそんなものかも知れない。
 この皮膜は実際、天敵、たとえばクロダイなどに襲われたときの目晦まし用にちがいなく、だから場合によっては、おまけに墨まで吐き散らすこともあるそうな。

 では、この皮膜の丈夫さはどうかといえば、厚さ2ミリほどときわめて薄く、捕まればすぐに千切れてしまう…というより羽衣(マント)を脱ぎ捨て逃走する。同時にこのとき、ネバネバの粘液を分泌するらしい。逃げるが勝ち、トカゲの尻尾切りとおなじだ。

 ついでに、このムラサキダコは「喰えるか」といえば、「喰えないこともないが、水っぽくて喰えたもんじゃない」そうで。
 いちいちゴモットモ、ちゃんと理屈に適〔かな〕っている。
 肉食魚のシイラなど、ムラサキダコには見向きもしない、というのだから。

 雌雄でいえば、雌の方が大きくて(暗い深海に多く見られる特性)体長70cmくらい。こちらがもっぱらマントを広げる。
 いっぽうの雄は体長せいぜい3cmほど、膜なんか張っても意味がないくらいに小さい。

 はじめにふれた妖怪〝衣蛸〟伝説には、ふだんの生態として「貝殻に入って海の上をぷかぷか漂っている」という話しもあった。
 ムラサキダコの生態も、ふだんは海面の近くを漂っていることが多いらしく、背中には穴が二つあって空気を吸いこみ、浮袋にためている、ともいう。
 ますます面妖、ますますソックリ。

 ちなみに、〝生きた化石オウムガイを彷彿とさせるムラサキダコの近縁にはカイダコ類があって、かれらも海面を漂流することで知られており。
 カイダコ類の雌は、腕からカルシウムを分泌して貝殻を造り、ふだんはその中に包まれて暮らし、この中で卵の保育もする。
 そうして、かれらもまた雌が大きく雄は極く小さく、これまた日本海岸への漂着が多いらしい。

 ムラサキダコにまつわるアレコレは、妖怪〝衣蛸〟の伝説をふくらませ、捕まえようとすれば衣脱ぎ捨て、目眩まして逃げる。
 海の摩訶不思議、真っ赤に沈む日本海の夕陽にも似て……