どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

動物園の人気〝ご三家〟キリンが「絶滅危惧種」入り/空気のようにアクの少ない大スターの近未来は…

-No.1345-
★2017年05月28日(日曜日)
★《3.11》フクシマから → 2271日
★ オリンピック東京まで → 1153日



◆キリンさんが好きです

 どれくらい前のことだったか……
 いくつくらいの子だったか……

 幼い女の子が、はじける満面の笑顔でいうのだ。
「キリンさんが好きです」
 テレビのコマーシャルだった。

 これだけで画面に目を吸い寄せられ、なんど見ても飽きることがなかった。
 コマーシャル効果ばつぐん?……

 この場面にはつづきがあって。
「ゾウさんはも~っと好きです」

 じつに、かわゆい。
 すごいコマーシャル効果??……

 しかし、さて、ほんとにそうだったのだろうか。
 ぼくは、これがなんのコマーシャルだったか、覚えがない。
 というか、まさにオンエア中のそのときでさえ、なにをウリたいのかは、ついに知らずにいた。
 つまり、その業界でいわれる”訴求効果”なるものが、はたしてこれであったのだろうか。

 …だけれど、それは、まぁいい、きょうの主題はそれではなかった…

 なにしろ「キリンさんが好き」で「ゾウさんはも~っと好き」なのだった。
 幼な児の憧憬には、大きな生命にたいするかぎりない夢見心地があふれている。
 
 ぼくら、その後の齢〔よわい〕をかさねてきた者には、母性にたいする慕情あるいは尊敬の念しかのこっていないが。
 つい、ほんのさきごろ、その母性の産道…それは生まれくる児らにとっては苛酷といっていいほどのものらしい…それは”産みのくるしみ”にも増しておおきい”生まれるくるしみ”…をくぐりぬけ、ぶじ生をえた者にだけ与えられた感動のひと呼吸ではなかったかと、ぼくは思うのだ。

 そうした幼な児のときのあふれる情念が、成長につれて薄まりながらものこされた結果が、大人たちにも認められる巨大なモノに対する驚嘆の念ではないのだろうか。

 …いや、これも、まぁいい、きょうの主題じゃぁない…

 そう。「キリンさん」であった。
 もしかすると「キリンさんがいなくなるかも知れない」と聞いたとき、ボクはじぶんでも吃驚するくらい虚をつかれて、まごついてしまったものだ。
 国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト最新版で「絶滅危惧種Ⅱ類(VU)」に登録された、という。

 キリンさんが棲むのは、アフリカ中部以南のサバンナ、あるいは疎林である。
 調査によると、ギニアセネガル、ナイジェリア、モーリタニアエリトリアではすでに絶滅。マリ共和国でも絶滅したと考えられるそうで。
 すでに過去に絶滅、(日本のトキと同じく)再導入されたところもあるという。

 虚をつかれたボクは、、まごついた後で(どうしてだろう)考えた。
 そうして、しばらく気息をととのえ、思い至ったのは……

 キリンさんの、大型動物にしてはきわめてスマートなありようが、なかば夢のような永遠のイメージ化にひと役かっている、ということだった。
 キリンさんには、どこか、そういうゴタゴタと煩雑なこの世の諸事情を超越したようなところがあるのだった。
 存在感がけして薄くはないのに、それでいて”おしつけがまし”かったり、あるいは”けむた”かったりするところがない。

 なにかしら他のものを摂食あるいは吸収し、エネルギーに変換しなければ生きられない命という厄介な。
 この生命体そのもの、その生きる営みじたいがアクのつよいものなのにもかかわらず、キリンさんという草食動物には、そのへんに漂う一種の”あつくるしさ”というか、”いやらしさ”が濾過されてかぎりなく希薄、透明にちかい紗の膜のなかにあるようなのだ。

 アミメキリンという種類もあるほどに、みごとなその網目柄(赤褐色の縁どりに淡黄色)がまた、作為のとおくおよばない天恵美妙の域にあり。
 しかも、その体型、ふしぎにバランスもいいときている。

 幼児から高齢者まで知名度は長期安定トップクラス、動物園になくてはならない、図鑑のあつかいもつねに綺羅星スター、あまりにもよく知られていながら。
 けれども、たとえば。

 あんなに長い首をしながら、首の骨(頸椎)は多くの哺乳類(ヒトなど)と同じ7つ、1つが30cmもある、とか。
 驚異的に長い舌(およそ45cm)と、モグモグ柔軟に動かせる唇を駆使して、枝から葉を上手にしごきとることができ。だから、好物のアカシアに棘があっても、まったく苦にしない、とか。
 頭に角のような突起があるのはオスだけなんだよ、とか。
 牛の仲間の偶蹄目だから、「モゥ~」と鳴くことあっても、ごく稀で、だから動物園の飼育員さんだって聞いたことない人がいるんだってさ、とか
 それくらいのことなら、いまどきの情報社会に生きる子なら、たいがい知っているだろうが。

 そのスマートさは体型やイメージばかりではなしに、生理の不思議や生態の自由さにまでおよぶことは、知られているかどうか。

 キリンさんたちは、オスとメス、あるいは大人と子どもの体高の差(オス約5m、メス約4m)によって、食餌範囲の棲み分けもしている。
 キリンさんの生理にも、すばらしいものがあって。
 ひとつには、長い首の先にある脳まで血液を送る(この間の高低差は約2m)ために、キリンさんは高血圧なのだけれども。日常けっこう頻繁に頭の上げ下げをするし、またオス同士がたがいの首で相手を叩きあうネッキングというトレーニングもする。それでも貧血や立ちくらみをおこすことがないのは、後頭部に張り巡らされた密な毛細血管網がそれを防いでくれているからだ。

 いま、キリンさんのネッキングは「若いオス同士のトレーニング」といったけれど、じっさい、成熟したキリンさんのオスがメスをめぐって優劣をきめるときには、ほとんどが背くらべでケリがつく、と聞いた。無用の闘争を避ける、じつに賢い。

 キリンさんの生態でとても興味深かったのは、若いメスが保母さんがわりになって、母親たちが食餌するあいだ子どもたちをあずかる、青空保育園のようなものがあること。これは、ほかの生きものたちにも見られることだけれども、キリンさんの場合がいちばんお似あい。

 ぜひ、いちど見ておきたいのは、キリンさんの休息と眠り。ほとんどの場合は立ったままだそうだけれど、ごく稀に安全が確保された状況なら2~3時間は座って休むこともあるそうな。でも、熟睡できるのは1日にせいぜい3~4分とか。

 ぼくがキリンさんの姿でいちばん好きなのは、長い両前足を大きく開き踏ん張って、水を飲む姿。まるでファッションショーを見るようで、これはいい。
 でも現実には、ほとんど1日じゅうモシャモシャ食べつづける葉っぱから必要な水分を補給できるので、キリンさんがこんなふうにして水を飲む場面は少ないし、それにだいいち、この格好は無防備にすぎる。

 キリンさんが走る姿も好きだが。
 肉食ではないから狩りをすることもないし、全速力で走る(時速50~60km)ことも少ないキリンさん、本人も走ることが好きではないらしい。この場合にも脚の長さが邪魔をして、加速性能がよくないからだそうだし。
 また、なるべくそんなふうに走ることがなくてすむように、背の高さを利してつねに周囲の見張り怠りなく、キリンさんは視力にも、聴力にもすぐれている。

 ぼくは、動物園という在り方には懐疑的な者だ、けれど。
 絶滅危惧種の保護・復活ということにかぎっては、存在意義があるかも知れない、と思う。

 たとえば日本では、ことし、宇都宮動物園でキリンさんの赤ちゃんがつづけて2頭、誕生している。
 そこには、じつは、群れのつくり方はゆるくて自由、恋の季節もおおらかにいつでも自由、というキリンさんの生態のヒミツがあるのだけれど。 

 妊娠期間は約450日(15ヶ月)で、ヒトと同じく長く。
 しかし、4~7時間かけて、立ったままでの出産は、ヒトを驚かす。赤ちゃんキリンは、2メートルくらいの高さから産み落とされることになるわけだが、長い体が弓のようにしなうことで衝撃が少ない…とか、にわかには信じ難いけれども、じっさいに出産事故というのは少ないと聞く。

 生まれた子どもは、野生の本能で20分~1時間ほどで立ちあがる。授乳期間は約10ヶ月。
 生後数日~2週間くらいで植物質のものを食べ始める。

 ちなみにキリンさん、3年半くらいで性成熟するオスが、繁殖に参加(交尾)するのは8歳以降と、わりに抑制的で。
 寿命は25年。イメージからすると短すぎる気もするが、スマートな一生ともいえる。

 おしまいに。
 「絶滅危惧」の原因はいうまでもない、森林伐採や開発など生息環境の悪化と破壊、そして密猟、天変地異。
 そのいずれにもヒトの支配が関与していることを、このさいせめて自覚はしておきたい。