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どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

〈忘れ潮〉の沖縄紀行2016…西表島 ②/    マングローブの森に熱帯雨林のスコールか!?

-No.1018-
★2016年07月05日(火曜日)
★《3.11》フクシマから → 1944日
★ オリンピック東京まで → 1480日











◆すべてがイリオモテらしさ

 海上を素っ飛ぶこと30分あまりで西表島、大原港に着いた。
 石垣の港では、晴れ間が広がりはじめたかと見えた空が、西表ではたっぷり含んだ雨粒の重そうな梅雨空にもどっていた。
 けれども、ぼくのイメージする西表島は亜熱帯雨林の島。
 これくらいが似あっている、気もする。

 ここで、また、いくつかのツアー・グループに分かれた。
 ぼくら、仲間川マングローブクルーズの一行は、観光バスで河口へと移動する。

 ワンマンの運転手さんが、ガイド・マイクを口もとに自在のハンドルさばきにも慣れている。
 島にたった二ヶ所の交通信号機、大原港近くにあるそのひとつが「じつは小学校生徒の教育用でございます」と、おどけた口調で、ついでに鮮やかな朱赤の沖縄瓦、軒先の瓦に〶マークが付いているのもここだけ、とそつがない。

 対向車も、追い抜いていく車もめったにない舗装路をゆったりと転がして行きながら。
 この下にはイリオモテヤマネコ用の抜け道がいくつも掘られていること。
 それでも、交通事故死などで絶滅が危惧されていること。
 したがって、観光客の目撃談のほとんどが飼い猫を見誤ったものであること。
 なぜなら昼日中に歩きまわるイリオモテヤマネコなどいないからだ、というようなことまで、み~んな話題にしてしまう。

 そうでもしないと間がもたない、自然ばかりの寡黙な島であった。
 周囲130㎞と、沖縄第二の大きな島ながら、港らしい港があるのは、こちら東部の大原港と、もうひとつは西の上原港だけ。
 この二港を結ぶかたちの東岸道路は通じているものの、平地が極めて少なく、90%がマングロ-ブなどの原生林に覆われる島には、一周道路もない。
 島には発電所がなく、電気は石垣島から海底電線で送電を受けている。
 いっぽうで豊富な水資源のほうは、海底パイプラインで小浜島へ送水しており、現在は撲滅されているものの、かつてはマラリア発生地でもあった。
 ぼくは、そんな島を愛した俳優、高倉健のことを、ふと想ったりした。

 仲間川の広い河口は、見るからに水深の浅そうな水の色をしていた。
 遊覧ボートがすべりだしてまもなく、両岸にマングローブの密林が覆いかぶさってくる。
 マングロ-ブというのは、すでに知られているとおり、亜熱帯・熱帯地域の河口から潮間帯にかけて発達する”特異な植物群落”の名称で、特定の植物名ではない。
 西表島マングローブ林には、日本産マングローブ植物7種のすべてが分布するとのこと(ここだけということでもある)。

 サンゴ礁由来の島の汽水域、栄養分の少ない泥水地帯に、懸命に数多くの根を下ろしてしがみつくように生息するマングローブ植物は、ガイドさんの解説によれば、生存競争に敗れた末のこと、という。
 そういえば、マングローブ林の背後に圧倒的な分厚さで広がるイタジイやウラジロガシの密林が、低い雲に隠れた山の斜面まで、それこそ立錐の余地もない風情。

 調査の手が入ることも拒む魔境…を思い。
 つぎに南米アマゾンの膨大な密林へと、想いはとんだ。
 あちらの未曽有ともいうべきマングローブ林の、潮汐干満の差は10メートルを超すという。
 これはつまり、ちょっとした大津波クラスの水の襲来が日々繰り返されるわけで……
 まことにこの地球というのは、おどろきの水の惑星というほかはない。





 亜熱帯雨林ジャングルを分け入った奥には船着場があり、木道によってサキシマスオウノキの群落へと導かれる。
 日本最大といわれるサキシマスオウノキの、波うつ巨大な板根〔ばんこん〕は、そのまま大船の梶に使えそうなものだった。

 マングローブ林には、ツアーの遊覧ボートの数も多く、なかにはカヌーのツアーもあるようだった。
 帰路の船内で、ガイド船長が手の平に余るほど大きな仲間川のシジミを見せてくれる。ただし、泥を吐かせるのに数日はかかるそうな。
 もうひとつの西表名物で、高級食材のノコギリガザミが美味いとのことだったが、日帰りツアーでは味わう間もない。

 濃く重い緑の魔境に酔いかけた頃、雨林らしさのみやげ話しにでも…というわけか、不意につよい降りの驟雨に襲われ。
 ガイド船長は、透明ビニールの垂れ幕を下ろしながら「この雨はやまない」と宣言。
 ぼくら乗客一同は、ずぶ濡れになって桟橋を駆け、バスに逃げこむ。

「ほら、川の水位がさっきよりずっと低くなってるでしょう、きょうの遊覧ボートはこれでおしまい、午後はナシです」
 叩きつける雨筋を見つめて運転手さんが言った。

 ぼくたちが申し込んだこんどの離島ツアー、当初の予定では先に、波照間島の方へ寄ることになっていたのが、今朝になって、行程変更を知らされていた。
 その理由が、このマングローブクルーズ、仲間川の干満時刻のつごうにあったのだと、はじめて知ったことだった。