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どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

セラードのアリ塚…見通しのきかない草原のシロアリ/それでも生態系のカギをにぎりつづける

気象・環境・自然・動植物

-No.0963-
★2016年05月11日(水曜日)
★《3.11》フクシマから → 1889日
★ オリンピック東京まで → 1535日




◆嗚呼…植物遺体食のシロアリ

 シロアリがじつはアリの一種ではなく、ゴキブリの仲間だということは、きのうもお話した。
 そのせいか、シロアリもゴキブリ同様の忌み嫌われ者。
 それが、木造家屋を喰い倒す(人間の側から見た)性悪と、白く半透明なずん胴フォルムの薄気味悪さによることはマチガイない…が。

 それにしても、この昆虫の説明に用いられるコトバの凄まじさには、舌を巻く。
 (生物学者には情緒というものがないのだろうか、シロアリ嫌いなぼくだってもう少し思いやりのある表現をするだろう)

 シロアリの定義は、〈植物遺体〉を食する社会性昆虫である。
 シロアリにも、下等と上等があり、イエシロアリのような〈下等〉シロアリは家屋(木材ばかりでなく、ときにはコンクリート、プラスチック、動物の死体なども)を食害し、キノコシロアリのような〈上等〉シロアリはキノコ栽培の農耕に励む。

 そうして、ようやく最後に、セルロースの分解という消化プロセスの効用が説かれる。
 植物の16~60%がシロアリの身体を通ることで、一般の動植物が再利用できる物質に換えられ、これが生態系の維持に重要な役割をはたす、と。

 ここで、注目されるのがブラジルのサバンナ「カンポ・セラード」。
 「見通しのきかない草原」を意味するそうで、面積は日本の国土の5倍という。
 見通しがきかないのは、丈高く繁茂する草と灌木によるのだろうが、この草原の風景を特徴づけるアリ塚群が、セラードの生態系のカギをにぎっている。

 シロアリのアリ塚は、濃密に分布する地域では50m四方に80個以上をかぞえ。
 それらのアリ塚は、子孫が殖えるたびに規模も大ききなるわけだが、ひとつのアリ塚が形成されるまでには、長い長い時間を要するという。
 そうして、セラードの生態系を支えつづけてきた歴史も地球規模に古い。

 ここでは触れないが……。
 セラードは、じつはアフリカのサバンナと似たような成因の草原でありながら、その後の時代の変遷で生態系がまったく異なり。
 草食の大型哺乳動物がいない、肉食の捕食動物もいない、独特の生物相を育んできた。
 その生態系のシンボルがアリ塚。
 
 アリ塚のシロアリに、生息の食餌を頼るのは、まずオオアリクイ
 2億年以上も前から生きのこるといわれるオオアリクイは、大きくなると体長約2m、体重35kgほど。
 魔女の箒のようにフサフサの尾をもち、子を背中にのせて歩く。歯はなく、視力もほとんどないが、人間の40倍ともいわれる嗅覚をもち聴覚にもすぐれる。

 長く鋭い鉤爪をそなえた手は、歩行には(人なら身体障害ほどの)邪魔になるので、曲げた手首で歩く。
 (邪魔くさそうで、痛々しくさえ見える、けれど)
 この鉤爪はアリ塚に穴を開けるためのたいせつな道具で、シロアリは、さほどに命運を握る食餌なのダ。
 アリ塚に穴が開けば、60cmもある細長い舌を繰り出してシロアリを搦め捕り、(子育てに必要な栄養をつけるためにも)1日に3万匹ものアリを食べるといわれる。

 が、けっして、ひとつのアリ塚を喰い尽くすことはしない。
 手間をかけてこじあけた穴から、ひとつのアリ塚で食餌するのはせいぜい3分くらい。こうしてオオアリクイは毎日、複数のアリ塚をめぐって食欲を充たし、アリ塚が消滅することのないようにリスクを分散している。

 もちろん、シロアリだってただ喰われているわけでもなく、軍隊アリが巣を守るために攻撃してくる。オオアリクイの箒のような尾は、これを防ぎ、払い落すのに役に立つ。
 シロアリは、アリクイに喰われた損害をいそいで補充することで、生存をおびやかされずにすんでいる。
 それはオオアリクイにとっても、生存するうえで都合がいいわけだが。
 かといって、それにまったく頼りきっているわけでもなく、オオアリクイ自身も、エネルギー消費量の多い脳を小さく、省エネにする工夫をしているのだそうな。

 このへんになると、まったく涙ぐましいばかりの生存競争というほかない。
 (なお、オオアリクイに近い哺乳動物のアルマジロもシロアリを好物にしている)
 これは他所の話しだが、チンパンジーはアリ塚の穴に小枝を差し込んでシロアリを吊り出して食べるという、道具使いだ。
 
 さらに、アリ塚と他の生きものとの関係も多彩をきわめ。

 アリ塚上部には、アリヅカゲラ(キツツキの仲間)が巣穴を掘って棲みつき(巣をかけるような樹木がない)、子どもにシロアリを食べさせている。
 
 その下部には、アナホリフクロウが巣を掘り、小動物の狩りをする拠点(ふだんはアリ塚上から獲物を探索)にしている。やはり草原には適当な高さの木がないからだ。

 アリ塚には、ヒカリコメツキムシの幼虫が1つに1000匹ほど棲みついている。3cmほどの幼虫は、乾季のおわる秋が近づくと、怪しい緑色の光を発して羽蟻(シロアリ)を誘惑、捕食して育つ。

 アリもシロアリの恐ろしい天敵であり、熱帯にはシロアリを主に狙うアリも少なくないという。

 こうして見てくると、われら現代文明に生きる者が、わけもなしにシロアリを忌み嫌うことは、なにやら罪のような気さえしてくる。

 セラードには、シロアリと直接に関わりはないけれど、その生態系の一環をなす生物が、ほかにもある。

 タテガミオオカミは、主にネズミなどの小動物を捕食するが、餌は少ないので、ロベイラというトマトに似た赤い果実も食べる(タテガミオオカミしか食べない)。
 この果樹は、タテガミオオカミの糞に混じって種子が蒔かれることで、生きのこることができる。
 タテガミオオカミは、ロベイラの種が入った糞をアリ塚やハキリアリの巣(地下)に排泄し、そこからロベイラは成長する。

 また、セラードには果樹が少ないが、ココナッツは豊富だ。
 クロスジオマキザルは、ココナッツの実を3ヶ月ほど保存して乾燥させ(驚くなかれ保存食でアル)。
 固い殻を割って果肉を食べるが、その殻を割るのに、ハンマーにあたる石と台にする石を使うことを覚えた。
 (これなど頭脳が発達していると言われるチンパンジーよりスゴイ!)
 こうして石を両手に持ち運ぶことをつづけるうちに、足腰の筋肉が鍛えられ、二足歩行ができるようにもなった。

 彼らクロスジオマキザルの、ようやく手に入れたヨチヨチ二足歩行術というのが、われら二足歩行の大先達の、老齢で衰えはじめたヨタヨタ歩きと比べても、ほとんど差がない……のだった。