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どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんの書…/『戦争は女の顔をしていない』をようやく読みおえた

文化・社会・観賞・読書・思想

-No.0951-
★2016年04月29日(金曜日、昭和の日
★《3.11》フクシマから → 1877日
★ オリンピック東京まで → 1547日



 2015年ノーベル文学賞作家の本2冊を購入して、相当な覚悟をもって読みはじめたことは前にも記しました。
 『チェルノブイリの祈り』を読みおえ、感じたままを記したのが-No.0895-3月4日(金)投稿記事のこと。
 それから2週間ほど、少し読んでは暗い天井を見つめ、また少し読んでは吾が胸中に反芻して……

◆『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳、群像社刊)

 ……を、ようやくのことに、読みおえました。
 『戦争は女の顔をしていない』という表題には、さまざまな解釈が。
 おそらくは作者が考えもしなったこともふくめた、感情の坩堝を現出したでしょう。

 ナチス・ドイツとの戦争に巻き込まれ、その多くは進んで、あえて前線に赴きまでした彼女たち”女の子”たちの想いは……
 400頁ほどの本になど納まりきらず、あふれだし、ロシアの大地と彼女たちの一生を流れ奔る血の河になりました。
 誰にも、整理などできるものではありません。
 背表紙を見せて書棚に飾られるものでもありません。
  
 ですから、とても評論なんかできない、ぼくです。
 けれども……
 そのままにもできない、ぼくがいます。

 そこで、やむなく、ぼくがしたこと、できたことは。
 精一杯、思いっきり粗くしたフィルターから、それでも濾されずにのこったもの。
 どうにも通り抜けてはくれなかった、衝撃のことどものメモを、のこすこと。
 それだけでした。

 ……………
 
 冬にドイツ人の捕虜が連れて行かれるのに出くわしたときのこと。みんな凍えてた。
 (中略)
「ものすごい寒さで鳥だって飛びながら凍え死んだほど。」
 捕虜の中に一人の兵士がいた……。少年よ……。
「涙が顔の上に凍り付いている。」
 (中略)
「私はパンを一個とって半分に割ってやり、それを兵士あげた。」
 (中略)
「私は嬉しかった…… 憎むことができないということが嬉しかった。」

 ……………

 何もかも男のにおい、戦争は男のにおい。

 ……………

 あたしは戦争で自分の魂を葬ったんだ。

 ……………

 死人は語らない。死んでしまった人たちが語ることができたら…私たちは生きていられるだろうか?

 ……………

 これは私が話してるんじゃありません、私の悲しみが語っているんです。

 ……………

 (戦死したパルチザンの若者の弔いに駆けつけた母親、彼女がほかの若者たちの亡骸にも気づいた嘆きのことば)
「大事なせがれたちや! あんたたちのおっかさんは会えないんだね。あんたらが土に埋められるのを知らないんだよ。こんなに冷たい土に、すさまじい寒さの冬に。おっかさんたちみんなに代わってあたしが泣くよ。大事な大事なせがれたちや!」
「あんたたちみんながかわいそうだよ」

 ……………

 負傷したドイツ人が地面に転がって土をつかんでいたのを覚えています。痛みに苦しんでいたのです。私たちの兵隊がそこに近づいて言ったのです、「俺たちの大地に手を触れるな、おまえの土はおまえの国にあるんだ」と。

 ……………

 (戦後)どんな身上調書にもかならずある質問『身内に捕虜だった人がいますか』。
「どうして生きてやがる!どうして生き残った!」
ソ連の将校は降伏しない、わが国で捕虜になったものはいない、生き残った者は裏切り者だ」。

 ……………

 戦後は産科に助産婦としてつとめましたが、長くは続きませんでした血の匂いのアレルギー、身体が受け付けないないんです。戦地であまりにたくさんの血を見てしまったので。(中略)赤い更紗でも、バラやカ-ネーションの赤でも、私の身体は受け付けなかったんです。赤いものは何でも、血の色のものは……今でも家には赤いものは何もありません。

 ……………

 (スターリングラードの闘いで負傷兵二人を同時に交互に引きずって助けた看護婦は語る)
 (前略)よく見ると、一人は戦車兵なんだけど、もう一人はドイツ兵なのさ。私はドイツ兵を救っているんだよ。パニックになったよ。
 (中略)負傷者を二人とも交互に引きずって行ったよ……
 (中略)一つは憎しみのための心、もう一つは愛情のための心ってことはありえないんだよ。人間には心が一つしかない、自分の心をどうやって救うかって、いつもそのことを考えてきたよ。

 …………………∞…………………∞…………………

 (ぼくは、思います)
 つまるところ、戦争は〝男〟の顔もしていない。
 どんな顔も…。
 のっぺらぼうで、なんの感情もなく、考えもなく。
 攻撃し、殺戮する。
 ただ、それだけ。

 おなじ1945年の夏。
 第二次世界大戦に敗れた、日・独・伊三国同盟側の一国。
 ニッポンの敗戦、翌日に生まれた者として。
 ひとこと、言わせもらいます。

 心の、ほんの片隅にでも。
「戦争はいやでも、戦争になってしまえば、しかたがない」
 そんな思いを抱いている方には、この本が気づかせてくれるでしょう。
 戦争には生きた人の顔がない……
 あなたも、あなとの恋人も、あなたの父母兄弟も、友だちも……

 『戦争は女の顔をしていない』
 この本の表紙カバーには、女性兵士たちの写真が散りばめられているのですが。
 ぼくには、その一枚が、衝撃を語った本人(このひとにちがいない)と、ナゼかわかってしまい。
 すると、これも怖いことなのでした……