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どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

八ヶ岳は、ぼくがはじめて体験した山岳キャンプ地/NHK・BSプレミアム「にっぽん百名山」で再会

-No.0937-
★2016年04月15日(金曜日)
★《3.11》フクシマから → 1863日
★ オリンピック東京まで → 1561日





◆苔の絨毯と『風の又三郎

 ぼくが山歩きをはじめたのは、中学にすすんで間もない頃。
 友だちを誘い、テントを担いで、はじめての山中キャンプに挑んだのが、八ヶ岳だった。

 なぜ、八ヶ岳だったか。
 甲斐の国は、江戸からもそこそこ近かった、少なくとも信州信濃の国より近かった。
 (じつは、八ヶ岳は甲信国境の山だったが、イメージではもっと近くにあったのダ)

 南北30キロにもわたる一大火山群の八ヶ岳は、夏沢峠を境に〈北八ヶ岳〉と〈南八ヶ岳〉とにわけられる。
 この〈山群〉を成す〈山体〉には、むかしむかし、富士山と高さ比べをしたしたという話しが伝わっており。
 負けた富士山が口惜しがって、八ヶ岳を蹴り飛ばしたために、いま見るような形になった、と……。

 これに類した話しは全国にかずあるけれど、ぼくは、このスケールのでかさが好きだった。
 (なぜだろう、はじめからボクには、民具とか民話に傾斜する性向があったのダ)

 ぼくたちは、北八ヶ岳の縞枯山(2403m)を歩いた。
 北八ヶ岳は、尾根のあたりまで樹林帯がつづくなだらかさで、湖沼も多い。
 いっぽうの南八ヶ岳は、主峰赤岳(2899m)をはじめ、横岳・硫黄岳・阿弥陀岳・権現岳などの鋭い峰々が連なる名うての山岳地帯。
 そちらへは(経験をかさねてから…)と、ぼくたちは思っていた。

 この山行では、まずテントの一夜をすごすことが大きなテーマ。
 なにしろ、キャンプ場以外のところでキャンプをするのは、はじめてのボクら3人。
 しかも、戦争帰りの叔父さんから借用したテントが難物で、〈重い〉うえに〈でかい〉。
 それは、迷彩の施された徹底的に丈夫な布でできており、6~7人は楽に入れる大きさがあったのだ。

 戦後っ子の中学生にとって、費用の軽減はサイコーの魅力。
 ぼくたちは、山の中腹の樹林帯に幕営地をもとめ歩いた。
 そこで目にしたのは、ふっかふかの緑の絨毯、どこまでも広がる苔のうねり、ほとんどウットリお伽噺の世界に、ボクらは酔った。
 (八ヶ岳には500種類もの苔があるという、そんなことは知らない、わかりもしない頃だった)
 カサッと音がして振り返ると、ニホンカモシカの角が見えたりしたが……
 大きなテントを張れるようなところは、ついに見つからないまま時がすぎ……

 そのうちに霧がでて、濃密になり、やがて降雨がまじり、ぼくらは道を失い…つまり迷った。
 やむをえず、とにかく幕営にかかり、なんとか張ったテントは歪んで、見るからに不細工…などと論評する間もなく中に逃げこむ。
 夏山でも降りしきる雨の夜、冷えこみは情けなくなるくらいキツイ。

 テント内で火を使うことは禁物…それくらいの知識はあったが、ほかに手がない、どうにもしようがない。
 でかすぎるテントの利点…とこじつけて固形燃料に点火し、コッヘルで3人分の熱いスープをこしらえた。
 テントの天井にランタンを吊ってあり、その仄かな灯りをもとめ、テントの裾の隙間からデカい蛾どもが迷い込み、スープに飛びこむ…。

 思わずゴクッと唾を呑んだボクには、腸がヨワくて腹を下しやすい弱点があった。
 しかし……ほかに換えられるモノもない、未熟なサバイバル状況。
 やむをえず、ぼくらは浮いた蛾の鱗粉を端の方へと吹き寄せて、スープを啜った。

 不安な腹を抱えて眠った中学生たちは、極限に近い精神状態に救われたのかも知れない、さいわいにも腹を下すことなく、山を下れた。
 霧で見失った登山道は、翌朝になって探すと、意外なほどの近さに見つかった。
 かわりに、強い風が吹いた。

 そこは、八ヶ岳〔おろし〕で知られる卓越した風の世界。
 「三郎風」「風の三郎さん」とも呼ばれる強風は、麓に暴風雨除けの「風の三郎社」として祀られているほどなのだ。
 宮沢賢治の『風の又三郎』は、この「風の三郎さん」が下敷きになっているという。

 ぼくらは風に吹かれて高原野菜の麓へ。
 その後のボクは……
 もっぱら八ヶ岳の峰々を車窓から眺めてすごすことになり、ついに南八ヶ岳の峰々を踏み越えてはいない。

 NHKのBSプレミアムに『にっぽん百名山』という、30分ほどの山岳ガイド映像の番組がある。
 余計な神経をわずらわされることのない自然景観の映像は、ぼくが朝の身体をほぐし〈ながら見〉にするのに都合がいい。
 その放送で、ひさしぶりに八ヶ岳と再会、想い出は一気に半世紀を超えて飛んだわけだった……

 なお、ちなみに登山家、深田久弥さんが選定した「日本百名山」の「八ヶ岳」は「南八ヶ岳」を指し。
 ぼくらが歩いた「北八〔きたやつ〕」は、べつに〈蹴り飛ばされた〉わけではないものの、埒外に置かれている。