どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

「とろろ芋」のことを言われると冷や汗ものダ/  辰巳浜子さんのスッパリ切れ味するどい語り口

-No.0816-
★2015年12月16日(水曜日)
★《3.11》フクシマから → 1742日
★ オリンピック東京まで → 1682日





自然薯の皮を丹念に剥いたっけ…

 辰巳浜子さん(1904~1977)という、いまでいう食育大家の主婦がいた。
 いわば日本の料理研究家の草分け的な存在の方だが、ご本人はそう呼ばれることをきらって「主婦です」と仰っていた。江戸っ子。本名、辰巳ハマ。
 同世代には、安倍なをさん(1911~1996)という、青森生まれのステキな郷土料理家もいた。

 「ハマ」とか「なを」なんて名は、いまどきはやらないけれど。
 どちらの方にも、料理(調理)の本質、基本が徹底的にたたきこんであった。
 むかしの主婦には、識見と実践かねそなえた、おっかないくらいのおっ母さんがいた。

 若いころの一時期、小料理の店の板場をあずかっていたことのあるぼくは、このお二方に、お逢いしたことはないが、私淑して励んだものだった。

 お二方からは「まだ…ね」と、いわれることだろう。
 どちらも、ものいいがすこぶる率直だった、スギるくらいに。

 辰巳さんの書かれた『料理歳時記』に、たとえばこんな一節がある。
自然薯は、山に自然に生育したとろろいも。一名、山うなぎ。掘りあげる技術、至難。藁づとに包まれて貴重品扱い。掘る者のエチケットとしては、かならず来年のための芽を山においてくること、という。ねばり強く、味も濃厚。ひょろ長く細いので、完全に皮をむいてしまっては、食べるところがなくなってしまう。皮をむかずにヒゲだけ取っておろす。黒っぽい色のとろろなる。こちこちの茶色のまま、柚子酢、かぼす、すだち、橙などの絞り汁をかけ、醤油をたらして…。出汁でのばして、むぎとろ汁、そば汁にも。そのまま吸い物に落とすと、そのまま浮いて素敵な吸い口にも。
 つくねいも。八つ頭ののっぺりしたようなもの。腰が強く味もよく、のびが利いて、とろろのなかの白眉です。関西はほとんど、つくねいも。どうしてこれが東京の市場にでないのか?
 おろすと水のように他愛もない長芋は別名鼻ったれ芋。おろすより、(薄い短冊に)切って、二杯酢か三杯酢をかけて食べるにかぎる。
 えび芋は関西、八つ頭は関東、どちらも煮ふくませにして両横綱
 里芋は、皮をむいたら決して水に漬けない。最初にさっと洗って、皮をむいたらすぐ、堅く絞ったふきんで拭きあげる。茹でたり、ぬめりを洗うのも不要。煮干しや昆布の出汁でよいので、味のついた煮汁でいきなり煮あげる。」

 痛快。だが…。
 ぼくには「とろろ芋」の味わい、ちょと、ほろ苦いものがあって。
 じつはボク、この本に出逢う前(男子厨房をのぞく頃)に、無知ゆえに、自然薯に詫びねばならない経験をしていた。

 あるとき、ある地方の、とある方から、いただいて帰った自然薯
 藁づとにくるまれて、まさしく貴重な品ながら、あまりに細く、うねり曲って伸びて、おまけに黒々、洗っても落ちない。
 「とろろ」に、すりおろすことを思うと、色汚れに気がひけて。
 小さなの皮むき包丁を駆使して懸命に、ずいぶん時間をかけて、丹念にむいてから、すりおろした。

 すりおろしながら、ウナギは自然薯が化けたのダ…という俗信があったのもワカル気がした。
 稀少な「とろろ」ができて、それでも黒いところがあって、ガッカリだった。

 いまでは、その味わいすら覚えてはいない、のを想いだす。
 お笑い種…。

 ただし、辰巳さんには「おことばですが」ってことも。

 長芋。たしかに「水のように他愛もない」、「鼻ったれ芋」かも知れませんが、あれはアレで旨い。
 あたしみたいな薄情な男にゃ水っぽいくらいのが似合いで、自然薯のあの、出汁でのばさないことには粘り頑固に擂り鉢ごと持ちあがってきちゃうようなのは、後口も唇かゆく嫌味なほど、人を小馬鹿にして感じられるのです。

 それはともかく…。
 自然薯って、ヤマノイモの仲間なんですってね。
 大和芋とか、つくね芋なんかも、おんなじ仲間うち。
 長芋も、そう。
 ぼくは極く気楽に、自生するのが自然薯で、栽培したのが長芋かと思っていましたが、別種なんですと。

 芋のお家事情も、かなりこみいってる様子。
 自然薯もむかしは栽培されたそうですが、寒さに弱いのと収穫までに3~4年もかかったりするために敬遠され、かわりに、寒冷地でもよく育って1年で収穫できる「長芋」が栽培されるようになった、と。

 ぼくも、親戚が網走に転勤したときに、長芋を送ってもらってビックリしたおぼえがあります。
 日本では青森県と北海道が主産地で、この2道県で全体の80%近くをしめるんですってね。
  
 自然薯にしても長芋にしても生食することが多いのは、この芋に多く含まれる酵素ジアスターゼが熱に弱いからだと、これはたしか薬膳だったかなんかの本で読みました。

 なお、ちなみに、辰巳浜子さんに私淑してきたボクはいまでも、里芋は皮をむいたあと水洗いせず、濡れ布巾で拭いただけのを煮ふくめておりますヨ。
 もうじき年末、正月料理の一品にかかせない「煮しめ」に心をこめる季節デス。